愛宕山でカモシカを追いかけた50cmの犬の話     


 変人の家の愛犬は体長
50cm足の長さ15cm地面から自分の腹までの距離5cmでございます。
その説明でおわかりのことと思われますが樹齢10歳くらいの真っ黒いミニュチュアダックスです。
犬にして犬にあらず、離れて見るとアルマジロとか黒ネズミ、はたまたオットセイにも見えるのでございます。
 生後半年から一年のころはよく山登りに連れて行きましたが、その後変人は岩魚に狂ってしまい歩かせなくなったので、まったく歩くのがきらいな犬になってしまいました。
1997年10月のある日、骨折のリハビリのため もちろん女房・娘にはないしょで馬見ヶ崎河畔
山形自動車学校から見上げる岩山の尾根道に連れ出したのでございます。落下危険のため首紐はつけておりました。
 途中で一服つけた時、安全な場所なので紐を離しました。ちょっとしてアルマジロは突然まじめな顔になり自動車学校とは反対側の谷に一目散に突っ走って行きました。
変人はどうしたのかと犬の名を連呼しましたがまったく反応なし。2分位するとガサゴソというかなりの大物がヤブをかきわける音『ウワー なんだ!!』と肝を冷やしてるまもなく茶色のかたまりが尾根道を飛び跳ねて自動車学校側の谷に駆け下りていきました。
『なんだ!! なんだ!!』と思っていると、『キャン!! キャン!!』とオットセイが首紐ををつけたまま猛烈なスピードで追いかけていきました。 
その時になって初めて 愛犬はカモシカを追いかけていたんだと理解しました。(ちなみにここを歩くと半分以上の確立でカモシカと出会いますが、その時はそれを忘れていました。)
 芋煮会の時など山を見るとわかりますがかなりの崖です。カモシカはともかくとして家の愛犬が無事にすむはずがないと茫然自失。自動車学校まで転げ落ちてへたくそドライバーに轢かれてしまったか、運良く急ブレーキで命は助かったが学校の中をめちゃめちゃ走り回っているのか、などと心配しながら探すため崖くだりのロッククライミング。 
1998年まではここで山形市大花火大会が開かれていたので消火用のホースがたくさんひかれておりそのホースをザイル代りにしました。岩登りは若い時にかっこいいなと思い練習したのですが、生まれつき股関節が硬くまったくものになりませんでした。)
30mくらい下っていくと 30cm四方の岩のテラスがありその上で身動き出来なくなっていた愛犬発見。その時は本当にホッとしました。
 しかし、一難さってまた一難。かなりの斜度の崖の中のテラス こっちも今にも滑り落ちる体勢なのにどうやって回収したら良いか思案思案。左手で生きている木の枝を二本つかみ(こういう場合一本だとそれが折れると危険なので二本以上にしましょう) 右手に落ちていた木の枝を持ち、体をいっぱいに伸ばしなんとかかんとか首紐の端を枝にひっかけてたぐり寄せ、グッと一瞬首吊りの形でこっちに引き戻しました。
 もう彼女(オットセイ)の腹は擦り傷で真っ赤か。その後はずっとだっこして帰りました。
家に着いてからは もう当然 非難の雨あられ『今後絶対山に連れて行ってはいけない』となってしまいました。
たいした話ではないのですが最近の人生で途方にくれたベスト5には入る秋の一日でございました。

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