2000/11/03

『天皇の船』麻野涼 文藝春秋 2000/10

 今日も天気が悪し。

 久しぶりのピンポーン 
 この作者も私にとって初物です。

 
ブラジル移民、戦後の勝ち組・負け組の抗争の歴史的事実を背景に当時と現代が錯綜して物語は進行する。

 
敗戦の報がブラジル移民になされた時、大多数の日本人・日系人はその時の生活苦などからそれを信じようとはせず『日本は勝った』と思い込むことにより自分らの生存の拠りどころとした。敗戦を認めている人は認識派と呼ばれたがごく少数であったらしい。実際に勝ち組が認識派の人を殺す暗殺部隊などもあったとのこと。当時の日系新聞がやはり双方に分かれ『勝った』『負けた』の記事を出し、抗争に拍車をかけていた。

 その世相背景の中に詐欺犯罪集団も数多く出現し
、多くの勝ち組の人々がその犠牲になった。特務機関員を称する偽軍人の講演会が開かれ、農作物や土地の寄付をしたり、娘をさしだす人もいたとのこと。その多くの詐欺話のなかに『まもなく戦争に勝利した天皇の船がブラジルに到着し、我々を日本に戻してくれる。』というものもあった。

 話は新宿のホームレスが戦時中の百円紙幣を握り締め、国際協力事業団総裁とともに死んでいるところから始まり、複雑な人間模様を繰り広げます。
 
 サンパウロの私設警察のような死刑執行集団や満州の特務機関なども絡み合い題材になっています。

 現代に近い歴史絵巻が繰り広げられ、私にとっては久しぶりの秀作でありました。

 
 


 
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