釧路逹庵のきたよし便り

2001/11/28開始
 ━━親父の友人、釧路北病院長様からの便り━━
渓流釣り人にとってはアラスカに匹敵する憧れの場所、
釧路でガンガン釣りまくっている院長先生からの便りです
釧路の地図を見ながらウオッカを片手に北の地に思いをはせる山変人であった

2003からの便り

2002/12/12


 今年は釣果の多い良き年でありました。春、五月前後の釧路川下流、釧路市街、まさに、私の勤めている直ぐ側、歩いて2分くらいの所で、毎年のようにアメマスの大型、今年は風がなく穏やか日が多く足下はまだ凍っていても、フライ、それも6番ロッドで連れたんですから、嬉しかったんです。夏は忠類川の中流で、ウエットで良型のヤマメとオショロコマが一荷で掛かって来たりしてすっかりはまってしまったり、秋にはまた大型アメマスの里川での釣り、釧路川中流のルアーつりなどで楽しくやれました。最後に何とか60cm以上をお見せしたかったのですが、もうラインが凍りつきチャンスはなくなりましたので、後は日中暖かい時にちょっと川の様子を見に顔をだすくらいです。これからはルアーの手入れ、針先研ぎ、古くなたり、壊れたフライ、を解体して次期の為に捲き直しをします。特に壊れた歴戦のフライはその活
躍した時の事を思いだし乍ら楽しい作業でもあるのです、ルアーなどには魚の噛んだ歯型が残っていたりして、嬉しくなります。
 明けて4月終わりまで待つのは辛いけどこうして春を待つのも良いもんです。
だば、釣り情報は来年まで待っててけらっしゃい。           達庵より

2002/11/04

 11月3日強風警報でした。朝五時発近郷の川にアメマスをねらい出掛けました。6時半、増水してましたが、何とか徒渉、対岸に渡る、川底は岩盤が半分を占めて後は砂利、薄濁り、水温五度、気温ー2度川岸少し結氷あり、膝迄浸かっての釣り風が強いのと冷たい風でひどく寒い。風は川上から川を通り道にしているような具合で立って居るのが難しい程の突風を交えていた。ルースニング、だがインジケーターが見にくい、何でこんな日に来たんだろうと我乍ら呆れる、案内の釣り友の関係でそうなったので仕方がない。こんな日でも魚の食い気はあるのか、それがあったのだ。良型のアメマスが釣り友にヒット、流石名人と驚くが今度は自分にヒット、だが途中でバレてしまう。来ると云う事実が冷えきった脚を我慢させる、ついで又ヒット、しかし、此処で、安心したのか、寒さがぐっと来て最早我慢の限界、秋だと思ったのがもう冬なんだ、これからは防寒をと引き揚げた。こんな具合で待望のアメマスのシーズンが開幕しました。
 11月4日昨日と打って変わった穏やかな晴天、釧路川中流に出かける一寸様子見といった感じです。風も暖かな弱い風で気持ち良い、先行者が投げたあとで食いが良くない、それでも小型が2尾ヒット一時間足らずの釣果で、お供し家内にデジカメで撮ってもらいました。丁度その時神奈川から来たと云う若者がルアーをやるんでアメマスの写真を撮らして呉れと云うのでリリースするはずが色々時間がかかり結局ゲットして職場の先生に差し上げようと思っていましたら、折よく子供を連れて若い先生が釣りに来ましたので、差し上げて帰って来ました。
 アメマスはこれからです。大物が釣れましたら報告します。   
                  釧路達庵より

2002/10/26

 お待たせしました。今日十月二十六日釧路川中流に出掛けました。昼11時此処は釣り場所の都合で、ルアーです。昨年の今頃も釣れたなあと思い乍ら緑と赤のルアー16gを投げ静かに引きますとぐんぐんとアメマスが首を振るのが伝わります、最早ヒット、大川ですから引きは強い、ラインが悲鳴をあげロッドは満月、半年振りの快感、毎年のように答えてくれる釧路川、嬉しいねと大満足で車にいる妻を呼ぶ、もう釣れたのと小走りで来てシャッターを押して貰い、又ね、っと、リリース、車から折り畳みの椅子を二つ出して妻とコンビニの弁当を食べる。ちょうど食べ切った頃一台の車が止まり、釣り人が降りて来た
「釣れましたか」
「ああ、釣れたアメマス、、ルアーでね」
「え?釣れた、マジ?」
「そうだ、見せようか」
 と私はさっき撮ったデジカメで見せてやった。まだ二十歳を越ええたかいや越えてないのか、農家の息子といった顔つきの若者で
一応の格好はしている、それにハンチングが好い。
「此処で、釣っても良いですか」
 と頭を下げた。
「良いよ」
 私は彼に自分のルアーを見せてやった。彼は少し下手に行ってキャスティングを始めた、未だぎこちないが釣れるだろう、いや、釣れて欲しい。私は立ち上がり前と同じルアーを投げゆっくりルアーが底を這うように捲いていると、ヒットだ、大暴れしてやっと釣り上げ又妻にシャッターを押して貰う。リリース、若者がこちらを向いて羨ましいような顔をした。
「同じルアーだよ、ゆっくり引くようにすれば釣れるよ」
 と助言を呉れてやった。
今日はもう良い、引き上げようと私は妻に云い、愛車スバルツーリングワゴンに乗り込む、こんな良い日は貪らない方が良い、慎重にゆったりと走らせる、前のトラックがもたもたしていても、いらいらしない、良い休日だ。「贅沢だぞお前は」と自分に言い聞かせながら、釧路の晩秋の景色の中を家に戻った。
 釧路川の他、道東の川はこれから凍結する迄アメマス、イトウの時期です。晩年を釧路で暮らせて本当に良かったと思います。
 では又        達庵より

2002/10/05

       釣りの歌                  達庵

   幸いは静かな湖水に竿を振るそれだけでいい夏のひと日は

   モンカゲロウの湖上の舞いに見とれおりかのバレリーナの姿にも似て

   釣り服の上着についたダニ一匹目ざとい妻に見つかり御用

   山深き閉山の跡に流れあり釣り人ひとり竿振りており

   釣り用のログハウス欲しいと常日ごろ思いて遂に果たさずにおり

   ようやくに春の気配のする朝に古きリールの手入れを始む

   春風がダブルホールの邪魔をする誰もいない春の公園

   霧深きこの湖が贈られしハーディのロッドにふさわしと思う

   海が見え波音聞こえる知床の小川に岩魚群れ遊びおり

   少年のごとく心をときめかせ着きしリールの包みを開ける

   砂浜の遥か彼方に夕日落ち釣れない鱒のライズが残る

   もう買わない遺産が増えるばっかりと云いつつ見ている釣り具のカタログ

   釣れずして赤い夕日の砂浜を歩く二人の長い影

   釣り友が釣った「イトウ」はその晩の刺身となって存分威張られ

   ちょっとだけ脱線もして釣り会で男の自慢語り合う夜

   新緑の小川に一日毛ばり釣り孫に教える永遠の幸をと

   なにやかや釣りに行けずに三週間作った毛ばりが飛んで行きそう


 本当は釣りの情報を送る予定でしたが今年は野暮用が多く、それに土日の天候が悪く、釣り人泣かせであったので、近くの川で小型のヤマメとイワナを相手に遊んだ位で、これはと云う釣果がありません
 週末は阿寒湖のアメマスを予定していましたが思わざる台風で中止です。でもこれから釧路川のアメマスがシーズンを迎えます。良いのが釣れたらお知らせします。
 上の短歌は旧作の中から好きな作品を選びました、多作なのでこれからも、ときどき紹介させて頂きます。では、釧路、達庵より

2002/08/05


 今年の釧路地方は天候不順でおまけに台風の余波の大雨でやられたり余り良くはありあません。20度を越す日は余り無く、今日は最高17度朝は14度でした。でも、川に行けばまあまあの釣果があり、やっぱり道東、釧路は良いなあと釣りの友と話しております、渓流は上流も中流もヤマメとオショロコマが毛ばりに飛びつきます。今日は中流でのウエット釣りを試みました、添付のヤマメをはじめ良い型のオショロコマが一荷で掛かったりして、面白く一日を過ごしました。場所は知床の根元にある有名な忠類川の中流です。下流はもうカラフトマスの釣りが解禁になっていますが、中流はの本流に立ちこんでのウエット釣りも捨てがたい楽しみです。車の直ぐ側の一ケ所で充分楽しめますから、私のような年寄りでも無理なく、疲れたら車か、椅子で休めます。
 東京の孫娘が来ていますので、塩焼きとフライ、フライは開いてとんかつのように揚げてから、上にチーズをのせて、オーブンでこげる位焼き目をつけてから食べるとこれが又、旨いので、特別に必要分だけゲットして、来ました。しばらくはこんな休日が続くことと思います。

2002/07/10 雌阿寒岳への山行記いただきました

 七月やっとヤマメの解禁です。15cm位のは幾らも釣れますが30近くの大物はお目に掛れません、本流の深み、夕方は瀬でしょうが、熊が危ないので、日中の小物で遊ばして貰っています。秋には渓流に産卵に上がって来るので会えるでしょう。6月29日雌阿寒岳に登山、フスマの花に会ってきました。
その作文を送ります。

メアカンフスマとの再会 ←ここをクリックしてください

2002/06/01   
ロイヤルコーチマン

 いきなり聞き慣れない片仮名が題名に出て御免なさい。これは、洋式の毛ばり釣りに、言い換えれば今流行のフライフイッシングに使う毛ばりの名前なんです
 毛ばりに名前があるなんてと思われる方もお出でしょうが、昔から日本の鮎釣りに使われた数千といわれる毛ばりにも、一つ一つ決まった名前がありました。
 小さな毛ばりに過ぎませんが、それに洒落た名前をつけるなんて、東西を問わず、釣りの愛好家は風流人なんですね。
 やあ、今日はよく釣れたよ、えー本当、当たり毛ばりは?昼前は、闇がらす昼過ぎからはやっぱり花魁が一番だったよ、そんな会話が交わされていたんですね。今でも鮎釣りの毛ばりは当時と余り変わらずに使われています。
 フライフイッシングは洋式ですから、あちらの方が付けた名前の毛ばりが多いのです。それから。フライフイッシングの毛ばりは、川や湖やその周りで見られる虫を真似て作られたものが多く、それらはメイフライとかブラックアントなどように虫の名がそのまま付けられています。
 それから、毛ばりのことを単にフライと云います。
 私の好きなロイヤルコーチマンは昔イギリスの本場で作られた古典的なフライですが、私のフライボックスにはいつも入れてあります。名前を直訳すれば『忠実な御者』という意味ですが、多分釣り人が、必ずこのフライを鱒の口まで連れていって呉れという、切ない願いを込めての命名だったのでしょう。
 コーチマンの尾には金鶏鳥の胸毛から取ったオレンジ色に黒い二本の線があるハックルチップが用いられ、孔雀の尾羽根で、濃緑に輝くお尻、赤いシルクの胴背には二枚の白い羽根、そして雄鶏の茶色い首の毛で捲いた脚という、中々気品のある、目立つフライです。特に何かをイメージして考えたフライでもないよう   で、作られた当時のエピソードが知りたいです。
 先日、某渓流にいつもお世話になるH先生と行った時の話です。誰もが駐車する川のそばに、いつものように車を止め、支度をして、いつものように先ず魚がいるかどうかを探る為のフライ、パイロットフライといいますが、釣り人により色々好みがありますが、今日はカディスと云う、本当は水棲昆虫のトビゲラのアダルトをイメージして捲いたフライなんですが、私が捲くと、どう見ても小さな蛾に近い姿、でもそれでよく魚が反応してくれますので、それを釣り糸の先きにティペットと云いますが、そこに結び今日の釣りの第一投をしました。ところが投げたフライは生憎の風にあおられ、どこに行ったのか見失ってしまいました。
 あれ!どこかな?と私が目をこらしてフライを探していた時です、下流の方でぱちゃっと魚がフライにアタックしたのが見えました。
 ヤマメです、しかし、わたし自信はフライを見つけることに心がいっていますから、反射的に釣り竿を挙げる動作には至りませんでした。川の流れはさらさらと何ごともなかったように静かに流れております
 しまった、長年ヤマメをねらっている私としたことが、と一瞬思いましたが、それより、人に気付かれたら恥ずかしいと、この方が気になりました。 
 ヤマメが虫と思ってフライをくわえ、偽物と知って放す、この間僅かに02〜03秒、そして偽物と知られたこのフライではヤマメの記憶が消えるまで、いくら誘ってももう出ては来ません。
 ヤマメは敏捷で警戒心が強く、学習と記憶がしっかりしているのです。ヤマメのフライ釣りの難しさと面白さがそこにあるのです。
 そこにいくとイワナの方はしっかりフライをくわえて、自分の棲家まで持っていって食べよう、もし偽物だったらそれから放そうですから、そりゃー釣るのは易しいです。同じフライに三回ぐらいは出て来ます。くわえて放すまで1秒以上ありますよ。もっともイワナも大物になると難しいですがね。
 ヤマメがいる!でも又出てくれるかな?と同じ流れの筋にフライを上手く投げますが出てきません、二回、三回、あっ出たと、今度は反射的に竿をぴっしと挙げ、合わせを呉れてやります。やった!竿が丸くしなってぐんぐんと魚が川の中で引っ張っています。でもちょっと引き方が違います、イワナです、それ位の違いは魚を見なくとも分かります。
 少しばかり残念、いい型ですが、、ご免、君じゃないんだ、でも遊んでくれて有難うと放してやります。
 ところで、さっきのヤマメはどうしたのかな、まだいるだろうか、私は先程のヤマメが何としても諦めきれません。
 どうする、フライを換える?そうです、ロイヤルコーチマン、過去に幾度も素晴らしい思いでを、しかも困ったときに、もたらしてくれたロイヤルコーチマン私は静かにフライボックスからそれを取り出し釣り糸に結びました。
 さあ、準備は出来ました。私は立ち上がり、全神経を集中して竿を振ります。
 ようし、頼むぞと、フライを投げる、ポイントより1メートル上に、そうだうまくいったぞ、いい具合にフライが流れている、出るぞ、この辺は話が現在進行形になってしまいます。
 ばちゃ!間髪を入れず、私の反射神経が働きジャストタイミングで、竿を挙げ合わせを呉れる、ぐいぐいと竿が丸くなりヤマメは川の中を上に下にと逃げ回るやったあ!流石頼りになるコーチマン。
 やがて、力尽きたヤマメがいつものように、川の女王様に相応しい姿態で全身を震わせて現れる、この時が釣り人にとって何ごとにも換え難い至福の時なんです。私は有難うヤマメさんと感謝しながら、ヤマメを優しく川に戻すのです。
 この日は珍しくこの場所だけで型の良いヤマメを四尾もヒットさせました。いずれも、フライはローヤルコーチマンでした。
 その夜、昼の興奮が醒めやらず、自分の部屋にこもって、毛ばりを捲く時に鉤を固定するバイスという器具に向い、ロイヤルコーチマンの量産に励みました。
 この気持ちわかっていただけるでしょうか
 ロイヤルコーチマン、いい毛ばりです。

2002/05/14 


 42話  危機一髪 

 ゴールデンウイークはそれぞれの都合があるのだろうから、人を誘う事はしない、今年はどうしてか、風のない暖かな日が続き、行楽には持って来いの休日だ。毎年の事だが、釧路の風物詩でもあるアメマス釣りの最盛期である、しかし、この時期は風が強く、フライ釣りには向かないので、やむなく私は風に強いルアー釣りで、アメマスのぐんぐんと云う特徴のある引きを楽しんでいた。しかし、本当はフライで釣りたいのだ。自分で捲いたフライで釣りたい、そこにフライフイッシャーとしてのこだわりがある。
 この気象台始まって以来と云う穏やかな春、正に私、フライフ一シャーにとっての千載一遇の好機、これを見逃す訳にはいかない。
 釧路の日の出は早い、朝四時、若い頃は仮眠だけで出掛けたもんだが、今の私には体が許さない。体を思って6時からとする。
 釣り場までは車で五分、河畔の駐車場に車を置く、目の前が釣り場だ。先行の釣り人がいるので、声を掛けた。これもマナーの一つだ。
 「どうですか、当たりは」釣り人は背の高い青年だった。
 「ルアー今年始めたばっかり、未だ一匹もあげてない」と答えてくれた。
 「ルアー今年始めたばっかり、未だ一匹もあげてない」と答えてくれた。
 「深くしずめてゆっくり引く、でも、ここは沈めると掛かりが多くてルアーが勿体ない、あそこの出っ張りの方が根掛かりが少なく、いいかも知れないよ」とこの青年に好意を持った私は、後で自分がやろうと思っていたポインとを教えてあげた。彼はにこっと笑って頭をさげて、少し上流のポイントに向かった。
 先行者が一時間もルアーを投げて、しかも釣れなかった場所は如何に好ポイントといえども、暫く休ませなければ、魚は出てこない。私は少し下流の橋桁近くに移動した。先ほどまで霧に包まれていた対岸が見え始め、あっと云う間に一片の雲もない青空となり、川岸には、適当な間隔で釣り人達が思い思いの釣りを楽しんでいる。とうとうと流れる大川の岸辺を覗くと、無数の鮭の稚魚が群れをなして、海へと下って行く、こんな大自然の中で平均サイズ40センチのネイティブのアメマスと遊べるなんて、釧路にいて本当に良かったなあとつくづく思うのである。
 だが、今はこんな詩情豊かな思いに何時までも浸っている訳にはいかない。
 私は愛用の桂の木で作られたフライボックスから、昨夜捲き直したフライを取り出した。鮮やかな薄緑のロングスカート、胴も同じ緑だが、細身でシルバーのベルトがアクセントになり、肩に濃い茶のスカーフをあしらい、頭に真っ赤な帽子と云う、アピール度の高いフライだ。これは私のアメマス用の定番、この5〜6年、いつも私の期待に答えてくれたフライだ。
 釣れるだろうか、いや釣れる、最初の一投の期待にときめく胸の内が自分ながらに何とも嬉しい。
 先ずは様子を見るために、10m位前方、流れが少し乱れている所にフライを投げた、川底にフライを流し込み、何時ものように、今度はゆっくり引いてフライを泳がすと、早くもぐぐと当たりが伝わる、反射的にラインを引いて合わせを呉れると、アメマスはぐんぐんと首を振りながら深みへ逃げようとする。
 ヒット、今日はいいぞとリールを捲く、何回かのやり取りの末、水面に出て来たアメマスは、尾で水面を叩きばちゃばちゃと暴れる、愛竿、英国王室御用達の、ハーディの六番ロッドがUの字に曲がり、リールは幾度もドラグを唸らせてその引きに耐えている。釣り人私にとって最高のシーンである。
 釣られたアメマスは水玉模様の銀色の体をくねらせ、差し出した私の手の前で最後の嫌々をしている。 
 「ちょい待ち、今放してあげるからね」私はこう語りかけながら取り出したフォーセップで鉤を挟み、その手をくるんと半回転し、アメマスの体重を利用して鈎をはずしてやる、こうすれば魚体に人の手が触れずにさよなら出来るのだ。アメマスは大きな尾びれを一振りして流れに戻って行った。
 先ほどから、後ろに誰か来ているなと思っていたので、振り向くと朝の青年だった。
 「ばちゃばちゃ音がしたので見たら掛かっているんで、ずーと見てましたリリースするってあんな風にするんだと初めて見て感激しました」と彼は目を輝かせて私の顔を見つめました。
 「40センチ、まあまあの型だ、まだいるよ」と私はロッドを振りフライを投げた、フライとラインが沈みながら流れて行く、そしてポイントの手前でフライを止め、今度は流れに逆らってゆっくり、リズムを付けて鮭の子が泳いでいるようにフライを操作する、ぐ、ぐ、ぐ、当たりだ、反射的に合わせをくれるとぐんぐんとアメマスは首を振る、そして沖に向かって一気に走り出した。
 「掛かった、少し大きいかな」と呟きながら私はリールを捲き何回かのやり取りの後、慎重に魚を引き上げた。矢張り、思っていた通り前のより一回り大きい。リリースしようと、ホーセップを手にした時
 「写真とらして下さい」と、まだ側から離れてなかった青年がカメラを向けたので、頷くとを彼はアメマスのアップで何回かシャッターを押し、
 「家内に見せるんですよ、狙っているのはこれだって」と両手を広げた。
 リリースを終えて再びフライを投げると、直ぐにまたヒット、続いてまたヒット、余りよく掛かるので、何時の間にか周囲の釣り人達が集まって来て中には使っているフライを見せてくれと云う人もあったりしたが、流石にベテラン達は無関心だ、長くやっていれば、こんな経験は皆しているんだ。
 でも釧路川で、しかもフライでの経験は私にとっては初めての事、平静を保ってはいたが、喜びはかくせませんでした。この入れ食いは7尾で終わり川は静かになった。
 好事魔多しと云う諺がある、私がもうこれで十分と帰り支度をしているとあの青年が「やった、やった」と騒いでいる、見るとロッドがのされそうな格好だ、糸が切れそう、私は咄嗟に走って行き、リールのドラグ、これは釣り糸が出て行く時のブレーキですが、これを少し緩めてやった、今度は糸が魚が暴れる度に、ジージーとなって出て行き、青年はロッドを立てて一安心釣れたアメマスは結構良い型、リリースするのかと問うと、ゲットして、家に帰り見せるのだと云う、私はドラグの使い方を教えて彼を祝福してあげた。
私もそうだった、何もかもリリースだなんて、特に初心者にとって、そんなことは、その人の気持ちの問題だ。愉しみの場で、いつも身にそぐわない優等生になることはないのだと自分にも改めて云いきかせた。
 連休だったので、翌日の朝6時、また同じポイントに立った。今朝は霧もなく、晴天で暖かく雲雀が鳴いていた。
 川岸の足下では鮭の子が群れながら下っていて、それをじっと見ているだけでも飽きることなく、心が安まる。すると突然下流の岸でばちゃっとライズの音がした。アメマスが跳ねたのだ。
 よし、あいつを釣ろうと私は、いつもより岸寄りにフライを投げた、もう少し岸近くにと、フライを引いて位置を直そうとした時、ヒット、やったーとロッドを立て、リールを捲く、アメマスは沖に向かって走ろうとする、ドラグが気持ちよく鳴る、おきまりの情景だが、自分のイメージ通りにして釣れた時の快感は堪えられない。 
 リリースを終えた時、三、四人の人が私を取り巻くようにやって来た。何だろう、釣り人でない事は服装で判る。その内のちょっと年輩の男が
 「大きかったですね」と私に向かって話しかけた。
 「いや、アベレジサイズです」と答えると、その男は何処から聞いたのか
 「昨日は入れ食いだったそうで、ところでマスは釣れませんか」と首を傾げた。不審な奴だ。はて、ドラマなら、ここでいきなり逮捕状を突き付けられるかもしれない情景だ。まさか密猟の疑いじゃああるまいし、何だろう、まあ、余り話に乗らないようにとフライの点検をしていると今度は
 「豊増さんでしょう」と私の顔をしみじみと見るのです。
 「違いますよ」私はきっぱりと返事をして岸辺に立ちロッドを振ろうとした
 「実はNHKの取材に来てるんですがね」と男は初めて頭を下げた。私はもう全くその言葉を無視するようにロッドを振った。
 連中は何かごそごそ話し合っていたようだが、今度は携帯電話で人違いのようだ、下流を探して見るなどと交信しているのです。
 本当の取材かも知れないが、こんな連中は好みじゃない、休日の愉しみの中に割り込んで、俺を飯の種にするなんて、失礼な奴だ。そりゃあ、中にはそれを待っていたんだと喜ぶ人もいるかも知れないけど、俺はご免だ。心の中でこんな事を思ったせいもあって、アメマスのヒットは止まってしまった。
 家に帰って家内に話したら、
 「いいじゃない、休みに釣りに行ったと報道されても、悪いことじゃないで
しょう」とあっさり云われてしまった。
 じゃあー、あの時、「豊増先生をお探しですか、先生は釣りをなされませんよ、釣りはこの私、加藤の出番ですが、私では役不足でしょうか」と云えば良かったのかなあ、いやいや、やっぱり、買って出なかった、あれで良かったのだ。いい気になって相手をしていたら嫌な思い出が何時までも、と考えると、この事件、正に危機一髪の事態でありましたなあ。

2001/11/26 
 山形の晩秋を思い出しています。あの頃の馬見ケ崎の河原にはまだ清流が流れていて、ヤマメなどもいたように記憶しています。その頃は柔道に専念しており釣り所か勉強迄も犠牲にして、毎年落第をしていましたので、釣りの記憶は少ないでス。朝日の大鳥池に夏休みに行ってイワナを夕飯のおかずに釣ったことは覚えています。柔道の大田師範から何本も戦後釣り竿を頂きました。
 さてこの頃の釧路川の下流域は鮭の遡上時期で釣りは御法度ですが中流以上はアメマス、ニジマス、イトウなどのシーズンです。今年は58cmのアメマスが最高で、60以上は出ていません。ベテランの人はイトウ、ニジをねらっています。
 私達日曜釣り師はそれも半日ですから、余程の幸運でなければ無理で、せいぜいアメマスの40cmから50cmで満足してます。これだって野生の元気の良い奴ですから、贅沢と思っています。
 釧路の西にある茶路川、音別川は釧路川よりずーっと細い里川でカーブの深みには大小のアメマスが群れています。餌は滅多に食いません。警戒心も強く釣りずらいですが上手な人、私の友達などは結構釣っています。最近は皆さんがリリースしますので有り難いことです。ヤマメは皆食べる為にキープされてしまいます。ヤマメは冬眠?の支度中でしょう。
 湖は凍ればワカサギですが私は血圧が上がりますから、極地並みの釣りはもうやめました。今こちらは海でししゃもの盛りです。
 ではまた。
釧路逹庵より。

山変人注)柔道の大田師範とは我々の東での恩師でたしか腹快調と同窓の悦○先生のお父上のはずです

2001/10/09 火
釧路釣り情報
 北海道の釧路は釣り場が多く、一部を除き全て、自然の儘の世界です。
 近年はヤマメ。イワナは大物はいません。大体、固体数が多く、大きくならないのか、三年魚は殆ど釣られていまうので、いないのか、昔はいたんです。
 大物をねらうなら、湖のニジマス、アメマス、原野のイトウでしょうが案内と一緒のほうが無難でしょう。
 釧路の市を流れる釧路川、阿寒川などで春先にアメマスの40cm位なら誰でも、寒いのを我慢すれば、子供達でも釣れます。毎年4月の中旬から5月初旬にかけて、私の病院の側の橋の上下で釣れます。
 イトウは湿原の川で、今は中々見られません。釧路川の中流で毎年60cm位のがあがります。一昨日阿寒湖のアメマス釣りに行って来ました。
朝、霜がおりて結構寒かったですが、友達はフロートでライズを探して20尾位かな、私は腰までウエーディングして40cm位で2尾のみ、いずれもリリースしますが、まあよく遊んでくれます。これから未だニジマスが釣れますので、楽しみ。釣りはフライです。たまにルアーも使います。