釧路逹庵のきたよし便り

2001/11/28開始
 ━━親父の友人、釧路北病院長様からの便り━━
渓流釣り人にとってはアラスカに匹敵する憧れの場所、
釧路でガンガン釣りまくっている院長先生からの便りです

2010/12/10掲載
釣り便り

   
   

 今年は日本全国の気象が異常で過ぎていますが、当地も例外ではありません、時ならぬ高温や大雨が多くあり、釣りのメッカの一つでもある道東の看板は、もう薄れてしまっています。
 前回にもお知らせ致しましたように高速道路が十勝の本別から釧路迄延長する工事を人跡まれな山奥でやっておりましたのが、工事が進むにつれ人里を横断するようになり、釣り場に見上げるような鉄橋の柱が立ち並び、山の中腹には新しいトンネルの入り口が見え盛んに工事が進められ 道路は土砂を積んだ大型車が頻繁に行き交っている状況です。工事用の土砂は雨に流されないようにカバーが掛けられてはおりますが、中にはむき出しのもあり、当然それが流れて川を汚します。
 何十年変わらなかった絶好のポイントがすっかり変形し見る影もなく、更に濁水は水棲生物に悪影響を及ぼし、高速道路が出来るのは許せるにしても、その為に大切な環境が破壊されるのほ嘆かわしい現実です。
 更に高速道路は横断される地元の里にとっては全く無縁と云っても良いような代物ですから評判が悪いのは当然です。
 私共釣り愛好者にとってはもう泣いても泣ききれない現状で、出来るなら何処か近代文明のない地方に引っ越したい気持ちです。
 そんな中で今年の春を迎えましたが、天候不順で雨も多く、例年の釧路川アメマス釣り大会も余り良くはなかったようでし、ゴールデンウイークの頃の釧路川の釣り、これは毎年の風物詩でもありますが、今年は釣り人の姿も少なく過ぎてしまい、私は2〜3回ロッドを振りに出かけましたが、釣果は無く、足下に見られる鮭の仔の群れも少ないありさまでシーズンは終りました。
 ヤマメの解禁はこの地方では一ヶ月遅れの7月ですが、様子見に6月終わりに知床の川に行ってみました、此処は高速道路は来ていませんが、春の増水の為か川の流れが変わって、ポイントも大分変わっていました。ヤマメは小型ばかりで釣りの対象にはなりません、 多分プロが餌釣りが例年のように抜いてしまったんでしょう、オショロコマはいつもは残っていましたが、今年はそれも持って行かれたようで、これも困ったもんです。
 知床も最近は虫が少なくなり。防虫スプレーを使う事も少なくなりましたが虫に弱い人は忘れてはなりません。
 7月末、大雨、川は駄目ですが、河口の海アメは好調と云われましたが、私は余り好みません、しかし、今年の秋のアメマスは良いぞと期待しました。
 八月お盆が過ぎて釣友のY君と近郊のよく行く川の上流に大型ヤマメを狙い出かけました。ここは川迄急斜面と云うより崖を降りて行かねばならず、それに羆の心配もあり、少し心配もありましたが、ロープを降ろして下ることにしました。もう私の年では、それなしでは到底出来ない場所です。
 Y君にとっては初めての場所でしたし、兎に角、ここは先ずY君にと、8番のカディスを流れの向こう側白泡の上流から流すようにと伝え、少し流れに踏み込んでのキャスト、しかし思うようにポイントには投げられない、それにしても全く反応無しとは、どうしたことか先客でもあったのか、いや、いや、それは無いでしょう、4〜5回のキャストで私に交代、絶対いる筈と慎重に第一投、上手くいったと流れるカディスを目で追うと何とライズでヒット、いた、魚は上に下にと流れの中でラインを引き回す、これは良型のヤマメの引きだ。大事にポイントから離し、手元に寄せてネットイン、先ずは良かったとカメラに納めリリース、25cm位か、この辺では大型に属する良型でありました。
 続いて20cmが又ヒットし、「まだいるよ」とY君に交 代、間もなくY君にもヒット良かったと思ったがラインブレーク、残念、その後小型のみとなり今日はこれ迄、ロープを頼りやっと崖を登り、帰途につきました。この話、9月11日、リベンジと云う事で再度Y君と出かけ今度はロイヤル コーチマンの10番で見事20cmオーバーネットインで、無事彼もリベンジを果たしました。
 アメマスの産卵が終ったと思われる10月の終わり我等が名人と呼ぶSさんの話によれば、今年の遡上は途中で途切れて、何時もとは違い少ないが、まだ上流には残っている群れが居る筈と云う事で、Y君と何時もの釣り場の上流に行って見ると流れの中で良くは見えないけれども、何か大物が潜んでいる感じがする、 
 ロッドはスコットの86、5番、3ピース、ライン5番フローティングでリーダーは3番9フイート、ティペット3番60cm、フライはスカッド風で鬚付き背はコーティングして、全体のを色はオレンジといった私のオリジナルで、今日の流れを見て、ウエイトを2B2ケ付けたシステムである。
 同行のY君はまだ支度中だ。私は石河原を静かに踏みしめ乍ら川辺に立って息を整え、フライを落とす位置を決めた、魚の口元に上手く届かせるには流れの何処に落とせば良いのか? 第一投が一番大事なので慎重且つ決断が問われる瞬間でもある。
 投げた、流れた、フライが斜め奥に引っ込まれた、瞬間にしっかり合わせを呉れた、川の底でぐ、ぐ、っと魚が首を振って直ぐには動かない、これは正しく大物のヒット思わずロッドを持つ手に力が入る、3Xだからラインに自信ははあるが無理は出来ない彼が動き出したら兎に角流れに引き出す事、間違っても障害物に逃げ込まれないように上手く誘導して、流れの中で彼が疲れる迄待つんだ、そう自分に言い聞かせてロッドを操作する、嬉しさと心配が交差する、ひと時でもある。
 「出ましたよ、元気は良いが、まあ50cm一寸かな」とY君に知らせる、魚はもう障害物に逃げ込む力はない、姿もはっきり見えて来ている、Y君がネットを持って構えているアマメスは最後迄油断は出来ない、最後の一はねで逃げられた経験は誰でも持っている位だ。
 「大きいですよ」とネットインしたアメマスのフックをはずしながらY君が笑顔を見せた。しかし、思ったより大きくは見えているが測る程の事は無い、55cm前後か、狙っているのは60cmオ−バーだから満足は出来ない。
 その後40cm台が2〜3尾ヒットし、Y君に場所を譲ったが彼にはヒット無く、諦めて100m位下流に移動、ここは時折先行者が見られる所だが、私達には初めての所、行って見るとポイントは狭いが幾つもあるので期待が持てた。
 始めると早速Y君、そして私にも、でも型は小さい,それでY君を残して更に下流に移り次のポイントを見ると、此処は急カーブで流れが変わり深さもあり、大物の気配もする、今日の勝負は此処だと慎重に流したが魚は出て来ない、駄目かと思った時 深みの岩盤の影から一瞬キラっと光って消えたのはアメマスしかも大きい、よーしこれだとフライをチャトリュースのピーズエッグに変更して3〜4回投げ入れたが、何故か反応無く諦めてY君の所に戻り報告すると、彼は無言で早速下流のポイントに出かけ、期する所が有っての事だろう。
 私は携帯の椅子に腰を下ろし目の前のポイントを暫く休ませることにした。。
 今年は特に休日の天候が悪く釣りの回数も少なく、もう終わりに近づいてはいるが結果的にはそう悪くはない、たまたま大型に会えなかっただけで、これで不満するなんて、贅沢だよと自分に云い聞かせ心が落ち着いた。
 ふと下流の方に目をやると川縁をこちらに向かってY君 が歩いて来るのが見えた何だか不自然は歩き方、どうしたのかと立ち上がって見るとロッドをUの字にして近づいて来る、釣れたアメマスを曵いて来たのだ、聞くとネットをこちらに置いたままなのでと云うではないか、それではとネットを持って駆け寄ると、これは大きい、「いましたよ、あの深みに」と60cm近いアメマスを指差したのだ。
 「やっぱりなあ」と私は彼を祝福、カメラに収め,彼は型通りに魚体の回復を待ってリリース、口には出さ無っかったけれどこんな事ってあるんですねえ。
 こんな日が過ぎた後又増水が有り11月20日やっと今日は良いぞと少し早めに家を出てY君と出かけましが前回のポイントに魚は見えず、それではと、前にY君の友人であり名人でもある方の推薦の場所に移動したが其処も駄 目、折よく名人がやって来たので聞くと何処にも魚は見えないとの事、それでは川を換えて、その河口近くの居そうなポイントに3人で並んでキャストを繰り返したがやはり魚の姿はなく、出ても来ない、例年なら流れて来る氷が邪魔になったり、ガイドやリールが凍っても何とか釣れていたのに、今年はもう終わりなのかと、複雑な思い、まあ、贅沢は云わない、ここで名人三人揃ってのキャストで竿を納める幸いを感謝して川に別れを告げました。
 地元の私達はどうあれ、釧路地方のアメマス釣りについてはこの報告のように釣果については大変みむらがありますので、出来るだけ地元の情報を聞いてからお出かけになった方が宜しいと思います、何しろ釣り場に駐車している車の7割位は地元以外のナンバーですから、釣れなければ気の毒でなりません。
 小生明けて93才、もはやサポートなしでは釣り所じゃありません、この原稿をパソコンにのせるのも結構疲れますが 又来年も続けますので宜しくお願い致します。来年も皆様が元気で有ります様にお祈り致しまして終ります。
 

釣りの短歌

熊よけの鈴の音響く森の道川辺に急ぐ釣り人二人

鈴の音響かせて行く釣友の背が見え隠れする川辺の林

でかいぞと叫んだ後は綱引きだ竿が折れるか糸が切れるか

大急ぎ60cmのアメマスをカメラに収めて感謝のリリース

しっかりとロープを握りゆっくりと谷底目指して崖を降り行く

踏み外し幾度かロープにぶら下がり苦笑いする92才

二三年前にはロープを使わずに下った崖に今はこの様

確かめて必ず釣れるとその場所を譲った弟子に魚の影無し

居ないのか一寸交代第一投ぱっと飛びつく大型ヤマメ

このヤマメ君に釣って貰いたく折角来たのに残念至極

最近で一番大きなこのヤマメぶら下げ弟子のカメラに収まる

このヤマメ君のフライをなぜ避けた魚に聞いても返事はない

河原を伝わる蔓に左足取られてあっと前方転倒

転倒後一時声無し「大丈夫か」友の声にも返事が出来ない

状況が段々判って「竿はどこ」最初の言葉は息切れ切れに

「竿じゃないよご自分は」呆れたような返事が戻る

前方に倒れる前に持っていた竿は投げたか無意識の中

あちこちの体の痛みが安定し不思議に骨折なしで安心

左足痛むがゆっくり歩き出し直ぐにも元の調子に戻る

左膝左額に少しだけ出血ありだが心配なしだ

用心をしながら相手の足技に一本取られたあれと同じだ

帰り道お負けのように足下の草に躓き又もや転倒

転んでも今度は柔い草の上ご丁寧にと苦笑いする

昨日は腰痛忘れ釣りに行き今日は職場で腰屈めてる

「居ませんね」誰に聞いてもこの台詞何処へ行ったかアメマスは

名人が三人揃って坊主とはこんなことってあるんだなあ

開発が自然を壊しアメマスは長居は無用と海に帰った

何十年通った釣り場も開発の犠牲になった我等も共に

休日の一日こんなに長いのか突然釣りが終ったその日

 

2009/12/07掲載
釣り便り

A君の西別川上流で A君の釣り姿
O川のヤマメ Y君も釣りました


 今年ももう直ぐ終わりになりますが、今年初めての釧路からの釣りの便りを送ります。遅くなり申し訳ありませんが、実はこんなに遅れたのは、例年のように皆様に楽しんで頂けるような情報が無かったからです。

 確かに私の老化が進んだ事もその理由の一つではありますが、一番大きな理由は天候が不順で、しかも週末に雨が多く、近郊の有名、無名の釣りの河川は増水し洪水となり、釣り場を破壊し好ポイントがすっかり変わっていまい、魅力ある川では無くなってしまったのです。
 それに加えて新道の建設が進み、各河川の上流部の谷間には見上げるほどの巨大な橋脚が立ち並び、山には隋道が掘られ、道路用の土砂が延々と盛られ、正に日本の土建業者達のメッカここにありの有様で、開発の名に隠れたひどい環境破壊が行われているのです。
 道路は近代化して確かに便利にはなるでしょうが、日本で現在、全くのネイティブ大型魚が釣れる唯一の釣り場はすっかり変わりつつあり、この状態はまだ数年続くでしようから、釧路に行けばという今までの釣り人の夢は、もう幻想に過ぎない有様で、許されるものなら、どこか環境破壊の無い所に転居したい気持ちです。まあ価値観の相違は仕方がありませんが、将来が按ぜられます
 それを知ってか知らずにか、釣り場に駐車中の車は釧路ナンバー以外の車が大半を占めて遠くは和歌山東京を始め札幌、室蘭、北見、帯広などから車中泊を含めてのの遠征も見られ、お気の毒と、私どもは遠慮はしましたが、例年のようなご満足は少なかったと思います。
 特に産卵後の荒食いの機会を以前経験された方々の期待ははずれ、こんな筈じゃなかったのにと、がっかりされた事でしょう。
 さてそんな訳で春の釧路川のアメマスは全く駄目、七月解禁のヤマメとの出会いを楽しみに知床まで出掛けても、林道の閉鎖など釣り場までは行けず、僅かに近郊の支流で小型のヤマメやイワナと遊ぶ位でした。
 夏の終わりの遡上するアメマスに期待してましたけれど、矢張り濁流のせいか何時もより遡上に纏まりがなく、産卵も何時終わったのか、それも判然とせず今日に至っております、もうガイドが凍結し朝方は釣りになりません。
 勿論まだこの破壊が及ばない地域もあり好漁を味わった方々もあるでしょうが、私どもの仲間を含め、多くの地元の川釣り愛好者にとっては、天候の振り回され、アメマスの産卵地直撃の環境破壊を嘆いての一年でした。
 しかしながら、私の釣り友、特にフライフィシングの弟子達は、もう皆一人前になり、体力の落ちた私の釣りのサポートをして頂き、何とか少ないながらの魚を釣らせてもらいました、心から感謝申し上げます。
 更に今年も釣り場で初めてお目にかかり、色々教えて頂いた多くの釣 り人達の来年の幸運を合祈り、今年の報告を終わります。

 


      若き等の釣りの話で時が過ぎ終れば外は思わぬ吹雪
      集まれば同じ話の繰り返しそれも楽しい話すも聞くも
      夕迫る川辺を行けば竿を振る老人一人つい立ち止まる
      釣れないがリハビリになると渓流を熊よけ鈴を鳴らして歩く
      ヒグマなど何処にも居るさと嘯けど遭うのは嫌だ絶対嫌だ
      厳寒の川で転んで少しだが流れた体験何故か嬉しい
      アメマスの大群じっと時を待つ川底まさに聖域のごと
      静寂の夜明けの川にアメマスの漁の水音突然響く
        
            少なかった釣果の中からの思いでの数駒を
 

T川上流にて  T川上流 待望のアメマス
Y君も釣れました 今年の最終のアメマス



2008/12/05掲載

釣り情報 アメマス


 アママスの終期を迎えた釧路からです
 そろそろ終わりが近づいて来た11月末、今日はまだ釣りでは独り立ちしていないM君にアメマス釣りを体験させる約束の日で出発は6時と知らせてある。車の用意をしていると彼がやって来た。丁度5分前である、私の車に彼が釣り道具を乗せて、彼がドライバーを務めるのだ、ジャスト6時に出発だ、最近はこの時間厳守が板に付いて来た。天候は晴れ、気温2度。少し寒いようだが日中は8℃位になるとの予報である。行き先は近郊の川、言わずと知れたS川の中流だ。まだ車の少ない国道だが彼の運転はゆっくりだ、以前は結構なスピードで走ったもんだがと思いながら、まあ急ぐことはない、ポイントはいくつもある。途中でコンビに寄る、昼の弁当を買うためだ、最近私の好きなハムカツサンドが店頭から消え残念でならない。30分ばかり走って、今度は国道から離れて川沿いの道を北上する、野も山も雪こそ無いが、もうすっかり冬景色で、葉を落とした林越しに、蛇行して流れている川が見える、良い場所には何処も釣り人の車があり、それも最近は遠く札幌や室蘭、北見などのナンバーが多い、彼らの大半は車泊まりだから、こちらが朝早く出て来てもそこには入れない、しかし釣り場に困る事はない、ドライバーのM君にもっと上に行こうと指示、更に北上すると絶好の場所、先行者なし、此処だと車を道路からはずして駐車し、今日は良いぞと車から出た。
 明るい広い川原だから熊の心配は無い、早速支度をして静かに川辺に立って流れの中を覗くと、結構な型のアメマスが数尾定位しているのが見える。安心してロッドを出してラインを通していると、何時もながらゆっくり目のM君が「此処ですか」とリュックを下ろしながら少し不安げな顔を見せた「静かに前に出て川底を見ろよ」と私が云うと彼は二三歩川べりに近づき覗いていたが、馴れていないから、魚が何処にいるのか判らない、無言である。「あそこの川底の窪みに黒く二つ見えるだろう、良く見るとほら、尾びれの動きも見えるよ」と教えると暫らくして「ああ判った、あれですか、あっちにもいますね」と頷いた。アメマスは産卵を終えたばかりだがまだ元気は良い、50cm位でも片手では保てない、竿さばきがまだ出来てない内はネットは無理、魚が弱るまで耐えて、その後は強引に引上げるのが一番、だから初めからランディングの場所も選んでの釣りになる、今日の彼のロッドは9フイート5番、リーダーとティペットは3Xにして、フライのフックは太目の8番、フライはこの時期、何といってもエッグに勝るものは無い、色はオレンジを選んだ。
 


 彼のキャスティングについては、何回か一緒にやるにはやったが公園と現場では大違い、やって見ると,バックキャストが全くなってない、そこで考えた、此処は後ろが平らな河原で障害物は無い、後ろを気にせずに、後ろに投げたらちょっと間を置いてラインを前方に放り投げるように、ロッドを振り下ろせば大丈夫、そう言い聞かせてのキャスティングが、まあまあ出来るようになるのにそう時間は要らなかった、彼は教えたポイントにフライを投げ込んだ、ウエイトが付けてあるので緩い流れの川底にフライが沈んでいくのが見える、目印の赤い浮きがフライを引きずって流れて行く、その浮き「インジケーター」に少しでも変化があったら竿先を一寸振って見ると、魚がフライを口にしたのか、それともフライやウエイトが川底に引っかかったのかが判るのだが、それは初心者には難しい、そばについて一々今、今と教えても反応が遅いので、竿先の動きは魚が餌でないと気がついて、口からフライをふき出した後になってしまう、所謂合わせが遅れて空振りとなってしまうのです。将に彼の今はこの過程の中にあるわけです、それでも、まあ何回かの内にはヒットにつながることですから、後は彼に任せることにしました。
 アメマスの場合はフッキングしても、ただぐいぐいと深く引くだけで、力は強いがジャンプなどはしないのでヒットしたら、十分弱るまで綱引きをして,それから予定の浅瀬にひきあげればいいのです。
 


 M君と少し離れて、私は深みの流れ込みの近くに行きました、此処は対岸に障害物があり投げ辛い所だが食い気のあるアメマスがいつも2〜3尾はいるところです。
因みに私の仕掛けは彼のとは少し違い、フックの戻しをつぶしてあります、バーブレスと云い,リリースする魚に少しでもやさしく被害を与えないようにという,方法なんです。
 ここは流れが結構強いので川底は見えません、魚の方からも私の存在は見えないと思います、ウエイトのガン玉を一個増やし、静かに川辺に立ちフライを投げました。いつもの事ながら第一投目は心臓が高鳴ります、ポイントの3m位上流、良い具合に赤いインジケーターの丸い玉が流れています、一瞬の油断も許せません、期待と不安の中で、丸い玉、それが止まったと同時に斜めに引き込まれました、思い通りのヒットです、いきなりの大型、いやそれほどではない、50cm位かなでも強い引きです、私は腰を少し落とし,川辺に躓くことが無いように態勢を整え、ロッドを両手で持ち、強い引に耐えねばなりません、息がつまります、落ち着くように自分に言い聞かせます。魚は急流に突っ込み下流へ或いは上流へと暫らく抵抗していましたが、その内大分弱ったのか水面近くに浮上、ばしゃばしゃと、暴れています、ラインブレークしたらと少し心配にもなりましたが、3Xのチペットですから大丈夫,無事浅瀬に誘導しました。55cm良い型の雄でした。
 さて一段落して彼。M君の方を見るとヒットです、ロッドが正にUの字になり、M君はただ竿を両手で握り、ア、ア、アと叫びながら、少し川の流れに入ったりもして堪えているようです。
 魚がヒットした後の事は特に教えてはありません,私は駆け寄り、彼に右手で竿のグリップとラインを一緒に持ち魚の動きに合わせてラインを引いたり出したりして,魚が弱ったら,浅瀬に誘導して、と助言をしました、アメマスの場合は出来ればこの方法がベストなんです。
 初めてで、このような操作はそう簡単ではありませんが、何度かの危ない目にも遭いましたが 遂に彼はやってのけました。40cmを少し超した位でしたが、良かったです、良い体験をしました。この後私が遠く離れたポイントに移ってからは、一人で3尾もランヂングに成功したそうで良かったです。これを機会にフライフィッシングの面白さにはまると良いなと思います。
 今年は私も年ですから、いつもより早めに10月初めから本格的にアメマスを狙い、Dr.H先生を始め名人のS君,弟子のA君,Y君,などに色々と世話をして頂き、お陰で素晴らしい道東のF.Fを楽しませて頂きましたし、更に釣り場でお会いした名も知らぬ多くの釣人様からもお声を掛けて頂き、心から有り難く,この場をお借りして御礼申し上げます,来年も未だ釣は止められそうもありませんので宜しくお願い致します。
 

『釣れました」という少年の写真で浮かぶ遠き日の空

逹庵


 

達庵釣り情報 2008/8/30


 

 6月中旬まだ道東ではヤマメは解禁されていません、これはサケマスなど稚魚、所謂ギンケがまだ海に下がる途中だから、それを保護するためです天然のヤマメの稚魚もこの仲間ですから、多くの釣り人達は禁制を守っていますが、イワナについては制限外ですから、イワナを釣りに行くとヤマメが釣れるのは避けられません、リリースすれば良いのではと言う理屈は法的には通用しませんが、まあその辺の解釈はそれぞれです。
 解禁は北海道は一般的には6月なんですが、道東は寒冷地ですからひと月おくれなんです、ひと月遅れでも釣りの終わる時期は九月初旬で終わりですから漁期は二月余り、情けないかな本当に短い期間なんです。
 そんなことで、一日でも早くヤマメの顔が見たい釣り人達の中には、イワナ釣りと称してそれぞれの馴染の川に解禁前に出掛けます、それは私も同じです、しかし1918年生まれの私ですから、一人は禁物、いつも仲間の誰かが一緒です。今日誘って呉れたのは何時も世話になっているDrのH先生で場所は何時も行く近郊の渓流です。
 6月中旬、天候良し、微風、気温18℃、水温13℃、水量は少し少な目ですが、先行者も無いようで、ひと安心、川べりに立ちました。
 


 H先生はと見ると早くも少し離れた下流で始めています、私はまだフライが結べず手間どっていますが、やっとこれでよしと、流れの向うのポイントを注視しました、タレックスの偏光レンズを透して大きな石の横に見えました、良い型の魚はヤマメのようです、フライは定番の10番のカディス、ティペットは5X,流れの深さは1m位か、流速を考えて1.5メートル上流にフライを落としました、でも魚は反応しません、いつもなら飛び上がってくるのに、おかしいなと今度はフライを12番のパラシュートアントに変えました、インジケーターのオレンジは視認性もよく、この時期よく使うのです。
 体を低くし、暫らく間を置いてからのプレゼント、バシャっと水面が割れ 出ましたやっぱりヤマメでした、上流へ下流へと2番ロッドを満月にしのらせ、やがて全身をふるわせて無事ネットイン、20センチ位の良い型でした。直ぐにネットの中でホーセットでフライをはずしてリリース、良かったです、思わず深呼吸して満足しました。 河原は広く特にウエディングせずに釣れますのでゆっくりとヤマメの引きと姿を楽しむことが出来ます、とくに大型を望むのなら本流に行けば良いのでしょうが、もう体がそれを許しません。
 それにしても今年は何故かイワナよりヤマメが多く、イワナ釣りの看板にしては少し後ろめたい気もしますが、ヤマメの食いが落ちるとイワナが釣れるのです、2時間ばかりして一寸疲れたかなと水分を補給していると下流からH先生が戻ってきました。
 どうでしたと聞くと「ヤマメの方が多いいね」と一言、でも何かうかない顔付でした。次の言葉を待っていると「熊がいましたよ、川の向こう岸で私に気がついたのか、くるっと山の方に向きを変えて行ってしまいました、やっぱり居るんですね、話は聞いていたけれど,実物を見ると嫌ですね、それとは別ですが、リリースした魚を鷲がねらって急下降してくるんですよ」とまだ興奮が治まっていない様子でした。「でもこの前買ったスプレー持ってたんでしょう」と顔を見ると彼は何か決まり悪そうに「それが、持って来なかったんで」とのこと、いずれにせよ此処は退散した方が無難だし、と場所替え、本流の上流に行って見ましたが小さなイワナばかりで駄目でした。
 


 このことがあって2日過ぎ、役に立つかどうかは別にしても矢張りスプレーは持つべきだとこの齢にして始めて購入しました。釣りにはいつも忘れないで身につけるつもりですし、当分今日の釣り場には行かないことにしました。
 7月中旬DrH先生と釣友のY君と三人でこの時期毎年出掛ける知床の渓流S川に行きました今日はもうヤマメは解禁されていますからもう堂々と釣れるわけで期待を込めて、もう何十年も通っている釣り場ですから何の心配もなく釣り場に着きました。
 釣り場には使い古びた半貨物の車が一台ありましたが、多分この時期に良く見受ける野生の蕗採りの車かと思っていましたら薮を通して釣り人が二人見えました、よく見ると黒いウテットスーツで長竿の餌釣りです、この時期よく出会うプロの季節漁師、これからの観光シーズンを控え民宿や旅館などでお客に出す天然物の山女魚料理に使う魚を釣っているのです、近頃は20くらいの中型のオショロコマまで使われるとのことで、荷台を覆っているキャンバスをめくると中には大小のクーラーボックスが一杯ありました。これにはいささかびっくりしました。でも気を取り直し、支度をして川に立ちました、すると,何処に消えたのか彼らはもう見えませんでした、何故か分かりません、私どもに彼等を咎める理由は一つもありませんが、しかし流石に良型のヤマメは出ません、フライを追うのはまだフッキング出来ない稚魚ばかりで、たまに釣り残したオショロコマが釣れるのみ、H先生もY君同じで此処は諦め、T川の上流まで車を飛ばしました、此処も馴染みの釣り場で橋の上流でカディス、パラシュートアントなどを試しましたが、余り出は良くありません、そこで、H先生達を追って橋の下に行くと何とここにも長竿の餌つり、今度は筋子の餌で大きな竹魚篭を腹につけ二人組みで良型のヤマベをばしばし上げているではありませんか、挨拶しても全く無視されましたが、これじゃあもうお手上げ、止む無くT川の下流に場所替えしましたが、此処も鈎がかりしない稚魚ばかりで、H先生もY君もねばりましたが無念の敗退となりました。今年は休日の天候がどうも悪くて釣果の点では満足する日はなくて過ぎそうです。
 


 八月盆過ぎの休日、名人のS君の案内でY君と近郊の川の上流にニジマスを狙って川沿いの長い山道をどんどん進みましたが、何処も同じような景色ですから覚えられません、放されたら山の中の迷子になりそうな所、口には出しませんが此処は多分熊の国じゃあないかと思いました。春先が一番良いとS君が教えてくれましたが、春先の熊は一番危険ですよね。
 でも素晴らしい渓流です、いつの間にか怖さを忘れ夢中で案内に従いニジマスを求めて川を歩きました、フック8番に巻いたカディスにニジマスの20cm位でしたが、ジャンプもしてくれて満足しました。
 そう簡単に来れる所ではないので、更に上流の釣り場に案内してくれましたが,此処ももう惚れ惚れするような渓流で、流れの落ち込みの深みでは盛んにライズもしていたりすっかり嬉しくなり、本当に来て良かったなあと思いました、そこでも元気なニジマスに出会いました、カメラに収めようとしたらいきなり逃げてしまいした、所でどうしても釣って貰いたいY君はまだキャスティングが充分でなく、ポイントに投げることが難しく、渓流の釣は難しいのですが、ここで遂に嬉しいヒットがあり彼も私も良かったです、早速カメラに収めました。今年中にも一度来たいと思いますが、河口の海では鮭やアメマスの遡上が始まります、私はやりませんが、海アメマスも今が最盛期のようです、案内してくれた名人佐藤君には本当に有り難く思っています。
 二三日以来秋雨の大雨注意報が出て降ったり止んだりしています、きっと洪水一歩前位の増水と濁流があるでしょう、するとアメマスは一気に上ります、今年も素晴らしい秋の釣りが出来ますように用意しなければなりません、では又、次の機会にはアメマスの話が出来ますように祈りつつ終わります。
 

 

 

逹庵釣り情報  08 5 22


 今年の初便りです
地球温暖化の為かも知れませんが、今年は暖冬で早くも二月の中過ぎから釧路川のアメマスの情報を耳にしていました、しかし、川の凍結が解けたからと云っても川辺は凍っていて滑り易く危険ですから,後期高齢の私には無理な事で、まあそんなに急ぐ事は無い、後でゆっくり堪能出来ると思っていました、所が釧路の釣り具店主催の恒例の春のアメマス釣り大会がいつもより早く始まり,私は参加しませんでしたが、釣り仲間の何人かが参加したと報告を受けまして,多数参加者の中で私達仲間で一番の名人S君が第2位であったとの事です。 しかし一般に例年より成績は良くなかったらしいです。その事について、まだ時期が早かったとか、もう大型は海に下がったんだとか意見は色々でした。
 さて満を持して四月の初め弟子のA君とY君に誘われての初釣です。
 朝6時約束通りY君が迎えに来ました.元気な顔です。
「途中A君に所に寄って」私はそう云いながらハンドルをY君に任せました、「Yさんの家はどっちでしたか?」「星ケ浦、国道から一寸入った所、先ずはそこまで」と私は答え、車は国道を西に進みました。途中の話はいつもの事ながら今日の釣り場の事です、この地方ではやっと高速紛いの道路が建設中で、どの川も巨大な橋脚が谷や川を横断、工事用の臨時の道路も出来、その為に川は雨が降る度に濁流となり、土砂で幾たびも流れが変わったり,大事なポイントが駄目になったりするので釣り人を泣かせます、何十年も同じ所で楽しめた場所が消えるのは寂しい事です、まあそうは云っても新しいポイントは必ず出来るもんで、当座の釣に困る事はありません。
 色々な情報を整理して今日の釣り場は既に決めてあります,それを喋っている内に何とA君の家に寄るのを忘れ、通り過ぎているじゃあありませんか。これは一大事、貴重な朝の時間が失われま「ちょい待ち行き過ぎたよ、Uターンだ」「あっ、そうでしたね」とY君が車を回す、きっとA君は痺れを切らして待っているだろうと私は携帯で連絡、先ずはお詫びをしました。
 貴重な時間を30分ばかり無駄にしてしまいましたが、車はO川の下流、川口からい1キロ位上流の河原に着きました、以前は車から降りた所が良いポイントでしたが、今日はすっかり浅くなっていました。下流を見ますと既に先行者が3人並んでフライを投げています。そこはもう我々が入る余地はありません。
 それでも更に下流に行けばきっと良いポイントがあるに違いないと、長年の経験からの判断でどんどん広い河原を歩いて行きました,すると2人位なら丁度良い程の絶好のポイントがありました。ああ良かったと静かに川辺に立って覗き込むと深みの流れの底でキラッとアメマスが平を打っているのが見えました。ああ良かったここでやろうと私は同行の2人に告げ支度を始めました。一番良い場所はY君、A君はもう一人前ですから自分でキャスティングの場所を選ぶ事が出来ます。私はY君に魚が見えるだろう、流れを計算に入れて上流にキャストするようにと助言をしました。もうラインのトラブルは余りしなくなりましたし、投げ方も大分上達して来ましたから、多分今日は良い型をヒットさせて楽しめる事でしょう、でも先ずは最初の1尾をあげるまでは心配です。
 気温8℃水温7℃風が少し強いですが、この時期としては良い条件です。フライはチャトリュウス色、丁度新緑のような色のスカッド風で6番の大きさを使うようにしました。
 初めにA君がアメマスをヒット50センチオーバーの良い型でした、つづいて又ヒット、次には私にも、しかし期待していたY君は未だです、風が強まりライントラブルもしているよう
ですがもう以前のように私は手伝いません、一人でやるのが良い勉強の機会でもあるのです。
 その内にY君にもヒットがあり、結構な型で、これで皆が釣れて良かったです,特に私とY君は今年の初釣りですから尚更です、その後もそれぞれにヒットがありましたが、昼近く風が一段と強まり引き揚げることにしました.風でY君ばかりか,A君も私もライントラブルや対岸の枝にラインを掛けたりした苦労もありましたが,それぞれが満足出来て良かったです。
 後日A君とT川の有名な場所にも行きましたがあまり大き 
な型には遭えず、これはと期待すると大型のウグイなどでした、5月中旬には例年どおりイワナ釣りが上流で始まりましたが,これには未だ解禁前のヤマメやマスの子、こちらでギンケとの云いますが、これがフライにかかりますので、気を付けないと違反になります。
 今年の春は天候不順工事に伴う河床の変化などで、少々戸惑いのなかで過ぎてしまいましたが、いよいよ初夏を迎え道東の自然は釣り人を存分に楽しませてくれます,今年は90歳になりましたがロッドやラインを手入れし,フライを捲き、明日の釣りを思えば心は中学生のように浮き浮きとしている今日この頃です。次回はヤマメ、イワナの情報を送ります。

釣り情報   2007 12   釧路 加藤達郎

2007/12/08

 
  晩秋の頃、皆さんお元気でしょうか、今年は春のアメマス、夏のヤマメを報告しましたが、今回は今年の秋のアメマス釣りを送ります、今年の秋は何時までも、暖かさが、続き紅葉も遅れました、しかしアメマスは毎年お盆が過ぎると産卵のため海から川の上流を目指します、鱒、鮭の遡上とほぼ同じ頃です。
 釧路でも最近は海アメ釣りが盛んになり、釣友達からも海アメの情報を時々受けていましたが、私は相変わらず川のアメマスをねらっていました。
 9月の初め台風が通過し増水、濁流となりこの間、釣りは休みの状態になりましたが、中旬になって、回復、早速元弟子のA君と近くの何時もの川に行くと、もう待ちきれなかった釣り人達の車が良いポイントには何処にも駐車していましたが、何処も釣果はよくないとのこと、試みにやってみるとウグイ交じりで40センチに満たないアメマスがヒットした位、あちこちで鮭の産卵が見られ、アメマスはまだ早いくらいか、しかし、下旬になってもこんな調子でした。
 10月初旬となり、もう良い筈と以前名人の案内を受けたポイントにA君と川べりに立ちました、所が気温は8度でしたが水温は12度もあり、一体に浅くなり、あまり期待は出来そうもありませんでした、暫くやっていると、少し離れているA君が倒木の付近でライズがあり、中型だけど出るよと呼ばれ、行って見ると倒木の下流に一箇所フライを流す場所がありました、 
「此処しか無いですよ、交代でやりましょう」と薦められました。
 それではと彼がティペットを交換している間に、私が村上スペシャルをキャストすると直ぐに40cmがヒット、秋の初物となりました、リリースすると又ヒット、同じ位の型が又ヒットと3尾続きました。
 そこでA君と交代、彼も連続ヒットし又交代、今度はと私は大型を期待して6番の太めフックに巻いたチャトリュースのスカッド風のフライを慎重に流すとインジケ−ターの流れがふっと止まり根掛りかなと思い少しロッドをあおるとこれが50cm近い良型でした。
 私は『良い型でしょう」と近寄った彼に「このフライで」したと同じフライを進呈、試して貰うとこれが良かったのか、56cmの体高もある立派な型が彼のロッドを丸くし、しばらくはランディング出来ず、勿論ネットにも入りきれず、苦労しましたが何とか浅瀬に引き上げました、彼はこれでもう大喜び、今年の緒戦を終え、私も心から満足しました。
 次に10月下旬、釣り友のDrH先生から毎年この時期に良型が出るポイントに誘われ、待ってましたとばかり快諾しました。そこは良い場所なのに何故か余り釣り人が行かない場所なので、ゆっくり遊べるところです。
 約束の時間に彼の四駆がやって来て、早速私の荷物一切を乗せて出発、国道をまっしぐら、西に進みました、何時も行きにはその日の釣りへの期待を話し合うのですが、、今日は違いました、彼の最初の言葉は「あそこで熊の足跡を見たって、知り合いが云ってましたよ」との一言、釧路ではそれを聞いたからって誰も驚くことではありません「まあ、いないことは無いよなあ、会わないようにするだけで大丈夫、でも新しい足跡だったら退却だな」 
と私は呟くように答えました。
「それでね、熊よけのスプレーを買ったんだ、上手く使えれば良いけど、ただ熊がいつも風下にいればのことで、風上だったら使えないし、それでも、まあ持ってるだけで少し安心はするよ」とハンドルを持ちながら「でも実際熊に襲われて使えるかなあ」と付け加えた彼の話しには少しばかりの戸惑いも見えました。
 でも「いざとなったら人間結構やれるもんだ」私は確信を持って答えました,これは過去の戦いの最中で幾度も経験があります、そりゃあ、持たないよりは持っている方が遥かに良いに決まっています。
 釣り場近くに着くと此処は道路工事が始まっていて、熊もこれじゃ昼間は出てこない、今日は先ず心配ないと安心もしました。
 何時ものポイントは先日の雨のためか、いくらか水量が増えて釣りやすいようです。携帯の椅子に腰掛けて早速支度を始めました。H先生はシステムセットをドッドに付けたままで車に置いてあるから直ぐにキャストが出来ます、私がもたもた準備している内に40cm位のアメマスがヒット、「いますねー」と云いながら又ヒット、そして上流へと歩いて行きましたた、私へのご配慮があってのことだが、いつも彼は私が安全な所で余り移動しないで楽しめるようにしてくれているのです、彼は又上流、下流へと良いポイントを釣り歩くのも好きなようです。文字通りの有難い釣り友であります。
 やっと準備が整ってから私は立ち上がりました、今日は愛用のスコットの5番ロッドでラインも5番、リーダは4番、ティペットも4X、それに10番の自作ウエイト捲きスカッド風のフライをセット、これで今日は60cmの大物をと昨夜から決めてあったのです。
 少しばかり立ちこみ、腰を落とし、偏光眼鏡を通して流れの中を見ると大型のアメマスを中心に周りを取り囲むように中型少し離れて小型も見えました、正にかの連合艦隊が港に停泊しているようです。
 先ほどから流れ込みでライズしているのは小型のアメマスらしく、こんな魚の群れはこの時期、この辺の川の深みでは珍しい事ではありません、釣りマニヤとしては弥が上にも興奮させられますが、これが中々の難物、時には全く口を使わないこともあり、「いるけど食わない」こんなせりふがよく聞かれる時期でもあります。
 しかし今日は、さっきH先生が連続ヒットしたんだから大丈夫と云う思いで胸の高まりは並みじゃあなかったです。川の流れとその勢い、アメマスが定位している位置と深さを考えて、インジケーターの位置とウエイトの大きさを選びセットする、後は何処にフライを落とすか、それにより今度はキャスティングの位置と方向を見定めて、いよいよ今日の釣りが始まるのです。
 深呼吸を2回やりました、期待で高まった心臓の鼓動を少しでも鎮めるためにです。誰でも経験するでしょうが、それほど最初の一投は緊張します。リーダーとそれに続くティペットには大型のフライにウエイト、インジケーターがセットされているので、通常のキャスティングでは投げにくいので、普通はロールキャストをするですが、それも力で投げるのでなく、ロッドの弾力を上手く使い、放り投げるような感じで、どちらかと云えば、バンブーロッドか今は余り使われていないグラスロッドを振るようなスタイルが良いのです。
 この場所は流れ込みの上流が浅いので、そこから流すわけにはいきません、ちょっと無理ですが流れ込みの頭にスポット投げ入れ、流れ始めたらメンディングを2度ばかりやり、大型の定位する所に正確にフライが沈むように流さなければならないのです。気温8℃水温6℃微風の素晴らしいコンディションです。
 さあ慎重に少し体を屈めての第一投、思ったように上手く流れにのせましたフライも深みに消えました、後はインジケーターに注目少しの変化も見逃せません、時にもよりますが大型ほどインジケーターの変化が少ないのです。
 しかし流れているインジケーターには何の変化もなく、ここぞと思われる場所を過ぎてしまいました、張りつめた気が緩み。何だ駄目かとロッドを上げようとしたその時インジケーターが斜めに引きこまれました、反射的合わせるとヒットです、他の魚を驚かせないように、流れの下流に魚を誘導するのです、でも魚は上へ下にと逃げ回りますから思ったようには行きません、今ヒットした魚は40センチ前後の中型でしたので、何とか場所を荒らさずにランディングしてリリースしました。
 二投目はポイントはずれ、そのまま流してやり直し、3投目ヒットはしたが途中でバレ、これも大きくはありません、そこで根掛りを覚悟してウエイトを少し追加して見ました、3投目,いい具合にフライが深みへと流れたようです。するとインジケーターが僅かに動きました、あれっ?根掛りか?とロッドを立て引いて見ると,違う、大物です、ごくんと2度ばかり首を振ってから上流に動き出した、心臓が止まりそうな気持ちと、それでもこれは絶対逃がさないぞと云う気持ちが錯綜したが、「落ち着け」と自分に言い聞かせ慎重に魚の動きに無理無く対応、もう釣り場が荒れてもこれさえ釣れれば後はどうなってもと、自分が浅瀬とは云え川中で顛倒しないように気配りも欠かさず、暫くは深みの流れで魚の力を消耗させ、それから浅瀬に誘導しましたた、幾らか弱っているようですが、背びれを見せながらも、まだ強い引きをしている大型のアメマスは60cmを超えているようです、しっかりフックが下あごに掛かっているので先ずは大丈夫、後は何度もアメマスの頭をあげ酸欠にして弱らせてからランディングだと、自らは何度も深呼吸をして心を落ち着かせてロッドの操作しました。
 ランディングしたアメマスは64cm、これを両手で持っている写真が欲しいが誰もいません、そうだH先生が戻って来る迄生かしておこうと川縁に石を集め丸く並べ、浅い生け簀を作って入れて置きました。
 ここ迄して終わったとき私は初めて疲れが出てきました。椅子に腰掛け,水筒からお茶を飲んで、からからの喉を潤しました。そこで我に帰ったのか「良かった」と喜びが湧き出て、幾度も生け簀のアメマスに目をやりながら伸びて弱っているティペットを交換したり,フライフックの点検をして次に備えました。
 それから一時間位の間に休み休みアメマスをの50cm前後でしたが、いずれも強い引きで私を楽しませてくれましたし、戻って来たH先生に写真を撮って貰いました,昼近くもう帰ろうとしていましたら、先生の釣りの弟子がやって来て私は初対面でしたが『今日は余り喰いが良くないですね」と報告、先生は「そうでもないよ」と返事をしてましたが,後で帰る車の中でどうして喰いが悪いんかなあ」と不思議がっていましたが、矢張りこれも年期がいるんでしょうね。
 最盛期の11月は天気も安定し水量も少なめでしたが、その分群れで居る所さえ見つければ良い釣りが出来ました、ひどく寒い日気温3℃水温0℃の日でも良く釣れましたが、流石12月にはもう出かける気はあっても体が許しませんので今期のアメマスは終わりにしました。元弟子のA君、Y君と私それぞれの良型の写真を添付して釧路からの釣り便りをおわります。

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