山形そば黄門漫遊記39

「御隠居さん、いったい貴方は何処のどなた様でしょう」
「いやいや、私はただの隠居、ただ少々そば好きで、美味いそばの話を聞くとついつい足を運んでしまいますし、美味いと思ったりするものならお節介を承知で仲間に食べさせたくなってしまうんですよ、はっはっはぁー」

 てなわけで、今日も毎度のそば行脚、やって来たのがまた天童は舞鶴山の麓にかまえる大久保そば。こんな観光地の入り口のそば屋なんて、どうせ大したことないよと思うのが普通のアマ。通ぶったドシロウトを気にもかけずに、そばを打つのがプロ。勿論行くのは「ただのそば好き」

 大分前の話になりますが、腹を空かして鰊までつけて板を食ったあげく、金が無いのに気がついた八兵衛さん、何ともきまりが悪くって春秋する事しばし、おそるおそる名刺を出して「実は・・・・・・・・」と話し始めたことがあった。
 「申し訳ない、財布忘れてきてしまって、後で届けますから・・・・・」
 多分、体に似合わず消え入りそうな話しぶりだったと思う。
 「んーーー、あれ、××××××長さんなんだど、なんだべ、何したのったがねぇ、後でいいよ、大丈夫だべぇ、ねぇーー」と周りを見渡す。名刺を見て、電話で確認するでなし、人の顔覚えたんだかよく見るでなし、いいからいいからで、お許しをいただいてしまう。

 山形へ立ち戻るまでもなく直ちに天童市内へ急行し、カードで引き出して支払いに戻るべしと、意を決して店を出て車に乗ると「あったぁー」。ずぼらの功名、サイドボックスに百円玉がゴチャッとあるではないですか。

「おばちゃん、あったあった、ごめんごめん」
「なんだ早いこと、あったのがぁ、後でいいのに」
「そばが良ければ人も良し、いや人が良ければそばも良し。そばを食い歩いていますといろんなことがあるもんです。八兵衛もいろいろ経験積んでおりますなぁ」

 将棋の里天童、シンボル舞鶴山の入り口。
 そばは文字通りの田舎そば、ちょっと書いたけど鰊が美味いぞぉ。中が広くて生臭さは全然アーリマセーン。ちょっと太めで香りがバッチリ、八兵衛にとってはひときわ人情臭いそば。
 ただ時々、催促しないとそば湯を持って来ない。文句は言いませんが・・。

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