山形そば黄門漫遊記66

 山形のそば屋にも、辞めてしまったりして無くなった店があります。駄目になったのではなく、事情で辞めてしまった店なんかは好き者に語り継がれています。

 昔々、と言っても平成になってからの話ですが、西村山の大江町に、一松というそば屋がありました。
 前々から美味い美味いとの評判を聞いていた八っつあんは、ある日とうとう我慢が出来ず、ご隠居達の目を盗んでこっそり一人でそばを食いにやって来てしまいました。ちょっと分かりにくい所なので、教えられたとおりに車を役場に無断で置いて近所を歩いてみると、見えないものが見えてくるというか、人の出入りで店らしきものが見えてきて、探し当てることが出来たのでした。中に吸い込まれていくと細長いカウンターに変な(変ではないが、やっぱり変な)イスが連なり、奥にじっちゃんとばっちゃんがそばを茹でるスペースがありました。夕方になると赤い提灯が似合う感じの店でした。

 注文して待っていると、隣に何とも偉そうなオッサンが来て座りました。常連さんらしく慣れた態度でそばを注文してました。昼にかかってきたので、人が次々やってきました。夏だったので、皆さん結構”冷や麦”を頼んでました。しまったオイラもそうすべきだったかと思いましたが、今更しょうがないので黙ってました。
 やがて、そばが出されました。最初の一箸、チョット心配でしたが、つややかな香りの高いそばでした。夏というのに結構なもんだと感じたことが、今でもこの店の印象に残っています。たまたまだったかも知れませんし、もしかしたら隣に座ったオッサンのせいだったかも知れません。ズズッと手繰って、ペロッと食べて偉そうにそして忙しそうに、これからどっかへ出張なんだと出ていったオッサンの美味そうな顔が素敵でした。後で「何だっけあのオッサン?」と言ったら「町長だべずぅ」と言うことでした。

 その後行ったある日、道路の拡張とやらの為、また年も年なので間もなく店を辞めるという話をききました。仕方ないことなのでしょうが、消えていくのは寂しい気がしたものでした。しかしその後どうなったかは今日まで知らないでおります。
 ところで、この親父さんには息子さんがおりまして、国道添いの西川町で、やっぱり一松という名でそば屋をやっています。山形道の西川インターで下りて、数キロ先に進んだ交差点の所にあります。定番の二八?の他、限定ですが100%の別製というのをやっております。それは丁寧な美味いそばを出してくれます。先日行った時聞いたら、彼の名人は元気ですが何にもしていないとのことでした。「もったいないなぁ」そんな風に思いました。

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