イグアス,アルゼンチン,チリ,サンティアゴ,バルパライソ

  


みじめったらしく引き下がるのも癪です。つたないスペイン語で粘ってみました。

私が、
 「鍵がいっぱいかかっていて部屋は空いてるじゃあないですか、なんで泊めてくれないのですか?」
 って問いただすと、マエストロは一瞬困ったような顔をして、ロビーに置いてあった『ブエノスアイレス日報』をポンと放ってよこし、
 「何も知らないのかい、ほら、お国のお仲間がダッカで旅客機をハイジャックしたんだよ。こんな時に、お前さんを泊めるわけにはいかないのさ。犯人となんか繋がりあったりしたら、それこそ秘密警察からなんかの言いがかりをつけられて、しょつぴかれるかもしれない。悪いけどよそをあたってくれ」
 新聞に目をやるとどこかの空港の日本航空の旅客機の写真がでかでかと掲載されています。『ロッホ』とか『ロハ』っていう字も確認できます。長らく身を潜めていた日本赤軍が久しぶりに事件を起こしちゃったようなのです。『まったく近所迷惑な』っていう感じでしたが、こきたないヒッピー然とした格好の変酋長は、けっこう怪しく見られても不思議ではない風体、ホテルジャックくらいやってしまいそうにマエストロが思ったのかもしれません。いや、後から考えると、やはり『汚い戦争』中の猜疑心からのことだったのでしょう。

N50_0080.jpg