山形そば黄門漫遊記43
山形のラーメンには、米沢ラーメンに代表されるちりちり麺、要するに縮れてスープがより多く絡み、味が濃く感じられるものが結構あります。
ところがそばは、太さ細さ、硬さ柔らかさなんかによって多少違いはあっても、ラーメンのようなわけにはいきません。当たり前の話ですが、作る過程を見れば誰でも納得いくことなのです。そんなある日、たまたま一行が半郷付近にさしかかった時、例によって腹を空かした八兵衛さんが誘いをかけます。
「御隠居、東雲あたりで一枚たぐっていきませんか」
「そうですなぁ、おおそうだ、それでしたらその手前に旗をいっぱい立てた店がありましたなぁ。どうです?そこへ行ってみましょうか」
「わかります、わかります。実はあっしも一回行ってみたかったんですよ」
「なんという店でしたかなぁ」
「確か松嘉といったと思います」一見ただの農家、何回見てもただの農家、でも門から入って手前側が店になっている。中に入ってお蔵の中みたいな部屋に座る。例によってキョロキョロ見回すが、別に大したものはない。暫く待つとそばが出てくる。
「なにこれ、ねじれてるんじゃない、初めて見るタイプだねぇ」
「エッ、こんなの見たこと無いよ、なんなんだろうねぇ」
「どうやってこんな風にするんだろうねぇ」確かに出されたのはそばなんです。
いわゆる田舎そばで大変結構なレベルなんですが、縮れているというか、ねじれているというか、とにかくまっすぐではないんです。といっても細くてそうなっているわけでもないのですから、やっぱりなんか秘訣があるんでしょう。 婆さんに聞いてみると「真ん中さのしてやっど自然とほうなんだず(中心へそばを伸してやるとそうなるんだよ)」と教えてくれましたが、やはりなんかあるんでしょう。手加減というやつかな?なんて変に納得してしまったりして。「どうです、いろいろ行ってみると、いろんなそばに会えて楽しいもんでしょう。山形のそば、イヤァーほんとにいいもんです。さて、助さん各さん、そば湯もいただいたことですし、そろそろ参りましょうか」